「脳は再生できるのか」 脳の分野でも希望が芽出している
Osaka万博で展示されていたiPS細胞から作られた小さい心臓が、規則正しく動いていた姿が、思わず胸が熱くなった。心筋シートの展示もあったが、これは15年前、私が大学院で所属していた研究チームが取り組んでいたテーマでもあり、懐かしさと感慨深さがこみ上げました。
「脳卒中や脳挫傷などの患者さんには、心臓や肝臓のように再生できるわけではありません」と正直にお答えします。脳は全身の司令塔であり、細胞が存在するだけでなく、複雑に張り巡らされた神経回路として働かねばならないからです。
しかし、近年、脳の分野でも希望の芽が出ています。パーキンソン病に対するiPS由来の神経移植の臨床試験が国内でも始まり、実際にドーパミン神經を補う研究が報告されています。また海外では、脳梗塞患者に神経幹細胞と呼ばれる「脳の神経をつくるもの」などを移植し、失った機能を取り戻そうとする臨床試験が始まっています。実際に一部の患者で改善が報告されていますが、まだ初期の研究段階にとどまっています。これらの研究では、移植した細胞が長く生き残ることや、周囲の神経と正しいネットワークをつくれるかどうかが大きな課題です。
一方で、脳には「可塑性(かそせい)」という不思議な力があります。経験や学習、損傷などに応じて、神経細胞や神経回路のつながりが変化し、新しい働きを担えるようになる能力です。リハビリを通して、壊れた機能を別の神経回路が肩代わりし、動かなかった手が少しずつ動くようになるのが、脳の可塑性によるものです。
万博で目にした心臓再生の姿は、未来の医療の可能性を強く感じさせてくれました。脳の再生医療はまだ道半ばですが、着実に進んでいます。高齢化が進む日本にとって、脳の病気に立ち向かう新しい力になることを願っています。
Osaka万博で展示されていたiPS細胞から作られた小さい心臓が、規則正しく動いていた姿が、思わず胸が熱くなった。心筋シートの展示もあったが、これは15年前、私が大学院で所属していた研究チームが取り組んでいたテーマでもあり、懐かしさと感慨深さがこみ上げました。
「脳卒中や脳挫傷などの患者さんには、心臓や肝臓のように再生できるわけではありません」と正直にお答えします。脳は全身の司令塔であり、細胞が存在するだけでなく、複雑に張り巡らされた神経回路として働かねばならないからです。
しかし、近年、脳の分野でも希望の芽が出ています。パーキンソン病に対するiPS由来の神経移植の臨床試験が国内でも始まり、実際にドーパミン神經を補う研究が報告されています。また海外では、脳梗塞患者に神経幹細胞と呼ばれる「脳の神経をつくるもの」などを移植し、失った機能を取り戻そうとする臨床試験が始まっています。実際に一部の患者で改善が報告されていますが、まだ初期の研究段階にとどまっています。これらの研究では、移植した細胞が長く生き残ることや、周囲の神経と正しいネットワークをつくれるかどうかが大きな課題です。
一方で、脳には「可塑性(かそせい)」という不思議な力があります。経験や学習、損傷などに応じて、神経細胞や神経回路のつながりが変化し、新しい働きを担えるようになる能力です。リハビリを通して、壊れた機能を別の神経回路が肩代わりし、動かなかった手が少しずつ動くようになるのが、脳の可塑性によるものです。
万博で目にした心臓再生の姿は、未来の医療の可能性を強く感じさせてくれました。脳の再生医療はまだ道半ばですが、着実に進んでいます。高齢化が進む日本にとって、脳の病気に立ち向かう新しい力になることを願っています。